音博の楽しみ方

音博の楽しみ方 その1

初心者の方のための「京都音楽博覧会」解説

兵庫慎司

 複数の出演者が集まって行われる、いわゆるフェスティバルでライヴを観る、その観方というのは、次の3つに大別できます。

1 好きで普段からよく聴いているアーティストを観に行く。いわゆる、お目当てがいるパターンですね。

2 ワンマンに行ったりCDを買ったりするところまではいっていないが、最近ちょっと気になっている、いいかもと思っているアーティストを、いい機会だからここで観てみよう。チェックしてみる的なことですね。

3 全然知らなかったアーティストがそのフェスに出ていて、観る。で、それっきりの時もありますが、それが自分の音楽人生において重大な出会いになったりする可能性もあります。

 くるりが2008年から始めた京都音楽博覧会は、このうちでいうと3に特化したフェスです。1と2もありますが、3の占める割合が格段に大きいところが、他のフェスともっとも異なるところであります。なぜか。これがフェスである以前に、博覧会だからです。日本だけか、アメリカとイギリスが中心で日本勢も、というのが日本におけるロック・フェスのオーソドックスなところですが、京都音博はそうではありません。博覧会だから。8回めの開催となる今年の出演アーティスト、その第一弾発表の顔ぶれをご覧ください。くるりを含む全6組のうち、日本から2組、イギリスから2組、あとはアルゼンチンとレバノンのアーティストです。なお、京都音博はロック・フェスではありません。ロックじゃないアーティストも毎年出演するからです。あ、ここで言う「ロックじゃない」は、マインドのことを指しているのではなくて、音楽ジャンルとして物理的にロックではない、ということです。
複数のステージがあり、同時進行で演奏が行われているのがフェスのセオリーですが、京都音博のステージはひとつです。つまり、「これ興味ないから別のステージに行こう」ということができません。会場は出入り自由なので外に出ることはできますが、つまり今ステージにいるアーティストを観るか観ないかの2択しかないわけです。
なぜか。それこそが、くるりがやりたいことだからです。普段触れることのない、そのアーティストの存在すら知らない、ヘタするとそんなジャンルがあったことすら知らないような音楽と出会える場が作りたい、ということです。あと、「知ってたけど自分がまさかライヴを観るとは思わなかった」というケースもあります。過去数度登場している小田和正や石川さゆりがその例だといえるでしょう。どちらも、くるりのファンで普段から熱心に聴いている、というのはあまり想像できないアーティストですが、どちらも、ステージに登場した時の会場全体のアガりっぷり、すごいもんでした。
 それから、ここでしか観られないセッション。これはくるり主催のフェスなので、くるりのメンバーが他のアクトのステージに登場して一緒に演奏したり歌ったりする、という、他では味わえない楽しみにもあります。小田和正とくるり、細野晴臣とくるり、ザ・ベンチャーズとくるり、石川さゆりとくるり……毎年、そんなメモリアルなセッションが行われてきました。中には、「元くるりとくるり」(くるり+森信行と大村達身)という、涙モノのステージが実現した年もありました。

 そういう知らないアーティストとか、知らない音楽とか別にいいよ。普段からよく聴いてる、自分が好きなアーティストが観たいんだけど。と思う人もいるでしょう。だからワンマンでいいや、と思うのも自然でしょう。しかし、去年までで7回開催された京都音博は、動員は増えこそすれ減らず、毎回大盛況です。つまり、くるりの提示するこの、いわば「博覧会システム」を、みなさんが楽しんでいる、ということだと思います。
 先入観とか予備知識とかいりません。知らないからってそのアーティストのことを前もって調べたり、してもいいけどしなくてもいいと思います。ただまっさらな状態で、そこで鳴っている演奏を受け止める。気に入れば楽しいし、気に入らなくても「自分はこれは気に入らない」ということがわかる。時には、「これは気に入らないだろうな」というものが、突如自分にぶっ刺さったりすることもある。それが京都音博の楽しみ方だと思います。観たくないから観ない、というのももちろん自由ですが、できれば、「せっかくだからダラダラしながらでも観てみようかな」というような、ゆるい姿勢で臨むことを、おすすめします。

 以下、その他のことについて、初めて参加する方へ、解説とアドバイスと大きなお世話を箇条書きにしていきます。

・会場は京都市下京区の梅小路公園です。JR・近鉄・京都市交通局(地下鉄ね)の京都駅から徒歩15分のところにあります。フェスというのは通常、山の中とか海っぺりとかの広い土地があって大きな音を出しても平気な場所で行われるものであって、私の知る限り、のぞみの停まる駅から歩いて行ける、規模10,000人以上のフェスは、この京都音博だけです(ほかにあったら教えてください)。ただし、その代わり、音は小さめで、アコースティック楽器主体のアクトが多めです。バンドものも出ますが。

・場内は前半分と後ろ半分に分かれていて、前半分はスタンディングゾーン、後ろ半分はシートゾーンです。つまり、後ろはシートを敷いて場所を取り、座りながら観ることが可能ですが、スペースに限りがあるので、人数に合わせてなるべく小さく敷くようにしましょう。

・場外に飲食エリア、あります。トイレもとんでもなく待ったりはしなくていい数、あります。ビールなどのお酒は、販売はしていませんが持って入ることは可能です。ただしその場合、入口で缶から紙コップに移さないといけません。そのシステムが整っており、みんな手早く移し替えておられますが、そこで移し替えて自分のシートに戻る頃にはもうあらかた飲んじゃってる、ということをくり返した末、ここでちゃんと飲むのはあきらめ、フェスが終わったら四条あたりにくり出して居酒屋でパーッと飲むことにした、という方も多いようです。というか私です、それ。京都、いい居酒屋、多いのです。音楽業界人でありくるりと面識があり京都音博皆勤賞なのに、今まで一度も打ち上げに行ったことがないのはそのためです。すみません、岸田さん。

・お昼12時に始まって、19時頃に終わるので、新幹線で移動する方は、福岡から東京までの範囲なら、余裕で日帰り可能です。札幌とか鹿児島とかになると、ちょっときついかもしれません。ただし、この季節の京都は観光客が非常に多いので、切符の手配などはお早めに。駅のコインロッカーもいっぱいなのでご注意を。

・公園の隣に、「JR梅小路蒸気機関車館」という施設があり、何分か1回に「ポッポー」とSLの汽笛が鳴ります。演奏中でも鳴ります。楽器の音がでかい時はきこえませんが、2010年に遠藤賢司が出演した時、“夜汽車のブルース”を演奏中、エンケンさんが「♪しゅっしゅー、ぽっぽー……」と歌って、曲がブレイクした瞬間、絶妙のタイミングで汽笛が「ポッポー」と鳴り、オーディエンス「おーっ!」とどよめく、ということもありました。

・2012年から公園の隣に、京都水族館がオープンしました。音博の日も営業しているのですが、イルカスタジアムが会場に面しているので、イルカショーの間は音博、演奏ができません。時々転換時間がちょっと長いことがあるのは、そのためです。

・毎年、フェスの翌日に「くるり秋の宝探し大会」という催しが行われています。これは、音博の会場で宝探しキットを買うと参加できるもので、そのキットに入っている地図とクイズを問いて、それが指し示す市内のポイントを回りきってゴールすれば、賞品がもらえたり、1等の方がくるりと一緒にすき焼きを食べられるとか、保津川下りに参加できるとか、そういうイベントです。フェスの翌日は、その地図を持った人たちが市内のあちこちをウロウロしている姿も、すっかり定着しました。が、今年は曜日の関係で、この宝探し、フェスの前日に行われることになりました。詳しくはこのサイト内の宝探しのコーナーをご覧ください。
 ちなみにそのクイズ、かなり難しいです。よって私、ゴールできる自信なくて、参加したことがありません。(兵庫慎司)

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